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2010年11月20日 (土)

【雑誌掲載】NHKテキスト*社会福祉セミナーに掲載されました(11月20日)

児童虐待のない社会は子どもの参画から

NHK社会福祉セミナー
第23巻通巻代79号

プレイソーシャルワーカー/江戸川子どもの虐待防止キャンペーン
スーパーバイザー
荒田直輝(あらた・なおき)

児童虐待における子どもの視点
今年(二〇一〇年)一〇月三日、東京・築地本願寺にて「江戸川子どもの虐待防止キャンペーン」(以下、キャンペーン)報告シンポジウム(以下、報告会)を行いました。
本キャンペーンは、今年一月、東京都江戸川区において小学一年生の男児が虐待死した事件をきっかけに開始しました。
この事件の特異性は、男児自身が身近な大人にSOSを発し、それを諸機関が把握していたことにあります。被虐待児は自らが置かれている状況を語ることはめったにありません。男児の声は各機関に届けられましたが、継続した聞き取りや支援がなされず、このような事態を生みました。
事件は広く報道され、関心も高まりました。一方で、地域の子どもに向けた説明はなく、自分も助けてもらえないかもしれないという不信感が、子どもに広がる危機感を覚えました。子どもの声が尊重され、子どもの願いが反映される社会に転換することを伝え、ともによりよい社会を作っていくために動いていこうと呼びかけることが急務であると感じました。

子どものことは子どもに聞く
このようなことが二度と起こらないためには、直接子どもから意見を聞き、それを社会に届けるアクションが必要と考えました。そこで、区内で活動するNGO「江戸川子どもおんぶず」に提案し、子ども・若者グループ「チームあさって」とともにキャンペーンを開始しました。
「チームあさって」のメンバーは、所属も年齢も居住地区も異なる高校生から二〇代前半の人たちです。キャンペーンの方向性についてアドバイスを求めたところ、彼らから活動にかかわりたいとの声が上がり、キャンペーンの主体者となっていきました。
キャンペーンでは、一八歳までの子どもを対象にアンケート調査を実施。設問はチームあさってが考え、回答は自由記述式。冒険遊び場での「遊びながらヒアリング」も彼らが考案して行い、結果として全国から一〇二三通の回答を得ました。内訳は、江戸川区を含めた都内在住者が約6割、年齢は約8割が高校生でした。
アンケートの読み取りは、統計よりも個々の意見に目を向け、書き込まれた言葉の背景を読み解くことを基本にして実施。困ったときは相談「機関」より信頼できる「人」に助けを求めたい、虐待を受けているかもしれないと感じたときは自分が自ら動いて何とか助けたい、「しあわせ」になるには人とのつながりが何より大切だ、と考えている子どもたちの姿が浮かび上がりました。
結果の詳細は報告会で披露し、また、「チームあさって」の活動報告、児童虐待防止の専門家である川﨑二三彦(かわさきふみひこ)氏、若者・青年問題の専門家である宮本みち子氏(放送大学教授)をお招きしたシンポジウムに加え、私のプレイソーシャルワーカーとしてのかかわりの報告を行いました。

プレイソーシャルワークは主体性を引き出す
「チームあさって」の主体的な動きを支援するのに有効だったのは、私が冒険遊び場に勤務していたときの経験と実践から考案したプレイソーシャルワークというアプローチです。
 プレイソーシャルワークとは、①「遊び」が持っている主体性、自発性に注目し、子どもへアプローチする。②子ども・若者と社会をつなぐ(参加・参画)ための直接・間接的支援を行う、支援方法です。
①としては、居心地のよい自由で楽しい雰囲気を作る、どんな意見も傾聴し、肯定的に受け止める、出欠も出入りも強制しない、無理に団体扱いしないなどがあります。学校などでは出しにくい自分の気持ちを開放し、それが受け止められる実感を持つことで、自らが権利の主体者であることの自認につなげます。
②としては、彼らから出た「やってみたい」気持ちを支援することです。キーワードは「即時性」と「専門性」です。
即時性とは、要望に対してすぐに反応することです。彼らの気持ちが冷める前に、彼らの投げかけに大人が応えることが肝心です。  
専門性とは、文献や映像ではなく、実際の施設を訪ね、本職の方から話を聴き、本物の体験をすることを含みます。実際に、メンバーと一緒に児童相談所や子ども家庭支援センターの視察や事件の公判の傍聴などを行いました。
また、情報を開示することも大切です。ここでも、即時性と専門性は重要です。キャンペーンを進める中で出た児童虐待に関する疑問に対し、子どもだからといって伝える内容を制限したり安易なものに置き換えず、専門的な知識や現状を彼らがわかるような説明を行うことです。
大人は結果を求めがちですが、彼らの動きを「待つ」ことも不可欠です。アンケートの設問づくりでは、納得のいく設問ができるまで彼らの決定を待ちました。忍耐が要りますが、その結果、同世代(高校生)の心に響き、率直な回答を得られたのだと思います。
これらの経験を通して、彼らの中から新たな「やってみたい」ことが湧き出ます。プレイソーシャルワークのもと、権利の自認と情報の開示が相互作用を繰り返すことにより、「チームあさって」一人ひとりの自主性や主体性が育っていったと考えます。

児童虐待のない社会は子どもの参画から
子どもにかかわる問題解決の糸口が既存の手法だけではつかめない今日、子どもの声があらゆる場面において社会に反映される必要があると考えます。子どもと社会がつながっていくためには、子どもの参画は欠かせません。『子どもの参画』の著者で環境心理学者のR・ハートは「子どもは、社会の構成員として、市民として、大人のパートナーとして地域づくりに主体的に参画する能力があり、大人にはない力を発揮する」とし、その重要性を指摘しています。
イギリスでは、二〇〇〇年に起きた「ヴィクトリアちゃん虐待死亡事件」をきっかけに、子ども政策が大きく転換しました。検証調査により、情報共有と連携が機能していない、子どもの声を聴くことが仕組みに入っていないなどの課題が明確化され、二〇〇四年には「Children Act 2004」が制定。子どもの声が重要なエビデンスとして位置づけられる社会に生まれ変わりました。
関係機関が把握していたこと、支援者の誰もが被虐待児とじっくり話さなかったことは、イギリスと江戸川の事件に共通します。日本もイギリスが辿った道に倣い、子ども政策の大幅な見直しが求められます。今年七月に発表された「子ども若者ビジョン」では参画が謳われ、子ども若者施策に参画が推進される兆しにあります。まずは子どもの幸せと育ちに焦点を合わせ、その達成に必要な支援を、子どもの声に基づいて行っていくべきです。
報告会で、川﨑氏は「子どもの意見に対して大人が耳を傾け、真剣に受け止めていく姿勢を見せることが大事」と話し、宮本氏は「子どもの問題は個人ではなく、社会の抱える問題。子どもが自分の意見を聴いてもらう権利を保障する必要がある」と述べました。
児童虐待問題は年々深刻さを増し、さまざまな施策や仕組みが行われています。しかしながら、子どもの視点に立った取り組みはほとんどありません。子どもにかかわる問題を大人の発想だけで検討していくのではない、これまでのやり方とは異なる手法として「子どもの参画」が必要であると考えます。

(文=荒田直輝)

(2010年11月20日  NHK社会福祉セミナー)

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